池田太郎, 浅井陽, 南郷容子, 星野真由美, 大橋研介, 井上幹也, 杉藤公信萩原紀嗣, 越永従道, 草深竹志
日本小児外科学会雑誌 44(7) 959-964-964 2008年12月15日 査読有り
【目的】小児腹部リンパ管腫は比較的稀な疾患で,真性の腫瘍ではなく,先天的なリンパ管原基の発生異常と考えられている.腹部リンパ管腫は,主に腸間膜や大網,後腹膜に存在するものに分けられている.本症の発症契機となる症状は多彩であり,治療についても様々な方法が報告されている.そこで今回我々は,当院で過去10年間に経験した本症について後方視的に検討したので報告する.【対象・方法】過去10年間に経験した本症は11例であり,これらについて発症年齢,症状,発生部位,術式,合併症などの検討を行った.【結果】発症年齢は0日〜13歳で,平均2歳7か月であった.男女比は10:1と男児に多く見られた.発生部位は腸間膜が6例,後腹膜が5例であった.症状として最も多かったのは鼠径ヘルニア関連疾患と診断されたのちに本症と診断されたものと腸閉塞症状で発症したもので各々3例に認められた.次いで胎児診断されたものが2例で,内1例は待機中に感染を併発した.また,他疾患検査中に偶発的に診断されたものを2例に認めた.感染で発症したものが胎児診断されたものを除き1例に認めた.治療は全例手術であり,腫瘤摘出が9例(内,腸管合併切除は3例)で,残る2例は嚢胞開窓術であった.腹腔鏡を併用したものは2例あった.術後合併症は,早期に創感染を認めたものが1例と遠隔期に腸閉塞を呈したものが1例に認められた.【結論】本症は比較的稀な疾患であるが,鼠径ヘルニア関連疾患として発症することもあり,日常診療においても注意を要する.治療に関しては様々な報告があり,基本的には切除で良いと考えるが,重要臓器を切除してまで完全切除するか否かは議論のあるところと思われる.