宮原 悠三, 伊藤 誉, 鯉沼 広治, 宮倉 安幸, 堀江 久永, 佐田 尚宏
日本臨床外科学会雑誌 77(5) 1197 2016年5月
症例は65歳,男性.排便困難と肛門痛を主訴に近医を受診した.大腸内視鏡検査で下部直腸癌と診断され,当科を紹介受診.腹部CTで前立腺および肛門挙筋への浸潤,直腸周囲の膿瘍形成,側方リンパ節の腫脹を認めた.外来精査中にイレウスとなり,緊急で双孔式S状結腸人工肛門造設術を施行した.抗菌薬投与を行い炎症所見が消退した後,術前化学放射線療法(UFT 500mg/LV 75mg,総線量50.4Gy)を行い,腫瘍の著明な縮小を認め,骨盤内臓全摘術を施行した.術後に癒着性イレウスを発症したが保存的加療で軽快し,術後51日目に退院となった.切除標本では直腸病変は瘢痕化しており,病理組織学的検査では腫瘍細胞を認めず,化学放射線療法の効果はGrade3,病理学的完全奏効(pCR)と診断された.膿瘍形成を伴う高度進行直腸癌に対し術前化学放射線療法が奏効しpCRを得た症例を経験したので報告する.(著者抄録)