小池 創一
日本公衆衛生雑誌 49(12) 1268-1277 2002年12月 査読有り
目的 キューバのエイズ対策の概要,歴史,疫学,検査体制および療養所システムについて明らかにし,他のエイズ問題を抱える開発途上国に対して適応可能であるかについて考察を行うこと。<br/>方法 エイズ療養所への訪問および聞き取り調査(2001年 3 月23日より31日)ならびに文献調査<br/>調査結果<br/> (1)疫学 キューバの国立リファレルセンターであるペドロ・コウリ研究所における1986年から2001年 1 月までの累積 HIV 感染者・AIDS 患者数は合計で3,230人,うち男性は2,500人(77.4%),女性は730人(22.6%)であった。このうち AIDS 患者は1,195人,死亡は843人であった。<br/> (2)検査体制 HIV 検査は45ある全国研究所ネットワークにおいて一次検査を行い,ペドロ・コウリ研究所が確定診断を行う。<br/> (3)治療体制 HIV 感染が明らかとなった場合,患者・感染者は療養所に入所するか,デイケアホスピタルに入院することとなる。療養所またはデイケアホスピタルでの評価,教育等の終了後は,地域における外来プログラムに引き継がれるというシステムが構築されている。<br/> (4)キューバのエイズ対策の歴史 キューバにおけるエイズ対策は,1983年にキューバ公衆衛生省が全国エイズ委員会を設置した当時から本格化した。1990年 6 月までに延べ800万人に検査が実施され,大規模なエイズ検査態勢が敷かれた。1990年からはキューバ国内のすべての郡においてエイズ療養所の建設が始まり,1993年にはエイズ患者の外来治療制度が導入された。<br/>結論 キューバは,エイズの蔓延を防止できた点において成功を収めたといえるが,その成功は既存の保健医療システムに深く根ざしたものであり,かつ,極めて初期の段階に強力な介入を行うことができた点に特徴がある。一方,感染者をエイズ療養所に入所させるなどの取り扱いなど,手法の是非については国際的にも評価が分かれている。このため,キューバのエイズ対策をモデルとして,他のエイズ問題を抱える開発途上国に対してそのままの形で適応可能であるかという点については,更なる研究を待つ必要がある。キューバにおいてこれまでに確立された保健医療システムおよび国際協力の経験やノウハウは,将来キューバが南々協力の拠点となる可能性を示唆するものとして注目される。