山中 健一, 宮谷 博幸, 中島 嘉之, 池谷 敬, 池田 正俊, 牛丸 信也, 松本 吏弘, 本田 英明, 高松 徹, 岩城 孝明, 福西 昌徳, 鷺原 規喜, 吉田 行雄, 野田 弘志, 遠山 信幸, 土橋 洋
肝臓 51(7) 387-393 2010年7月25日
症例は78歳,男性.68歳時から多発肝嚢胞と腎嚢胞を指摘されていた.2007年12月,経過観察のCTで多発肝嚢胞と一部嚢胞内に充実性腫瘤を認めたため精査加療目的に2008年3月当科紹介受診.腹部超音波で肝両葉に多発嚢胞を認め,左葉S3の嚢胞内と右葉S7の嚢胞内に乳頭状隆起性腫瘤があった.腹部CTでもS3とS7の嚢胞内に淡く造影効果を伴う軟部組織濃度の腫瘤を認めた.FDG-PETでは肝内に異常集積像を認めなかった.ERCP,MRCPではS3とS7の嚢胞と胆管との交通は確認できなかった.嚢胞性腫瘍を強く疑い,肝部分切除術を施行した.病理学的所見としてはいずれも多房性嚢腫であった.一部に認められた,壁の充実性部分は肥厚した嚢胞壁を形成する血管結合組織で,画像上で嚢胞内隆起性病変と考えた部分は嚢胞内出血による凝血塊と,その部分的な器質化であった.腺腫や癌を疑う所見はなかった.同時多発性で増大傾向のある肝嚢胞内出血の症例は極めて稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.<br>