坂東 政司, 石井 芳樹, 北村 諭, 斉藤 建
気管支学 : 日本気管支研究会雑誌 16(7) 619-624 1994年11月25日
症例は, 72歳の男性で, 胸部異常陰影の精査目的で来院した。胸部X線写真では, 右中肺野に約3cm大の腫瘤影を認めた。右S^6の経気管支的腫瘍生検では, 大小不同の未分化な腫瘍細胞を認め, 大細胞癌が最も疑われたが, 確診には至らなかった。当院胸部外科にて右下葉切除および所属リンパ節郭清術を施行し, 手術切除標本で, 腫瘍はカルチノイドに類似したボール構造を示し, 高度な異型細胞を認めたため, 非定型カルチノイドが最も考えられた。リンパ節転移や肺内転移を認めなかったため, T2N0M0, stage Iとし, 術後化学療法を行わず外来にて経過観察とした。約1年後に血痰が出現し, 気管支鏡にて右中間幹および左底幹に腫瘍を認めた。その後化学療法や放射線療法を施行したが, 効果なく気管および気管支に広範に転移をきたし, 呼吸不全にて死亡した。本症例の病理像は, カルチノイドに類似した構造を示したが, 個々の腫瘍細胞は高度な異型を認め, また従来の非定型カルチノイドとは臨床経過が異なり, 予後がきわめて不良であったことから, 本症例はlarge cell neuroendocrine carcinomaである可能性が高いと考えられた。