安田 学, 小林 聡幸, 佐藤 謙伍, 齋藤 暢是, 須田 史朗
栃木精神医学 42 19-28 2022年11月
栃木県内の15の精神科病院で死亡した患者の死亡診断書をもとに,その死因と背景について調査を行った。対象は1996年から2015年までの20年間に,調査対象の15病院にて死亡した,入院患者2441人(男性1443人,女性998人)である。そのうち,精神疾患の診断が記載されていたのは1376人(男性826人,女性550人)であった。診断はICD-10で分類し,性別,死亡年齢,死亡月,死亡時間,死因,精神科診断を調査した。入院患者全体の平均死亡年齢は74.0歳であった。各年毎の平均死亡年齢は2000年までは70歳未満であり,2000年以降は平均死亡年齢の上昇がみられた。死因は呼吸器疾患(J00-J99)が40.1%,循環器疾患(I00-I99)が25.8%,悪性新生物が10.9%の順で高かった。呼吸器疾患では肺炎(J12-J18)が呼吸器疾患の94.2%を占めた。循環器疾患では急性心疾患(I0-I4)が34.5%,心不全(I50)が42.2%,脳動脈疾患(I6)も23.5%であった。悪性新生物の割合は消化器がん(C15-C26)が53.4%と全体の半数以上を占めた。一方で老衰(R54)は2.9%,自殺既遂(X60-X84)1.4%,窒息(W75-84)3.7%であり,老衰や外因死も一定の割合を占めていた。悪性症候群(R00-R99)は0.3%であり,2008年12月以降は報告がない。各診断分類での平均死亡年齢ては,自殺既遂(X60-X84)が52.5歳と著しく若かった。精神科疾患は統合失調症圏(F2)が47.0%,認知症と器質性精神障害(F0,G30)が40.8%,気分障害圏(F3)が4.4%であった。月別死亡者数は冬から春にかけて多く,死亡時刻は午前8時からの2時間が最多だった。この結果から栃木県の精神科病院では慢性疾患による死亡が多く,認知症や器質性精神障害および長期間入院していると思われる慢性期統合失調症患者が中心である。2000年から数年間で平均死亡年齢が急上昇した背景には,介護保険制度(2000年)および同時期に採用された新規抗精神病薬の影響があるかもしれない。(著者抄録)