金澤 丈治, 太田 康, 合津 和央, 竹生田 勝次, 椿 恵樹, 児玉 梢, 井上 理可, 臼渕 肇, 飯野 ゆき子
日本耳鼻咽喉科學會會報 111(6) 481-485 2008年6月20日
耳下腺腫瘍は, 日常臨床において比較的よく遭遇する疾患である. 耳下腺腫瘍に対する治療は手術が基本であり, 確定診断のためにも手術が行われる. このため耳下腺腫瘍手術の習得は, 耳鼻咽喉科専門医研修のなかでも重要な到達目標のひとつと考える. 今回, 平成12年1月より平成19年4月までに自治医科大学附属さいたま医療センター耳鼻咽喉科を受診した86例の耳下腺腫瘍患者のうち多形腺腫43例, ワルチン腫瘍28例の計71例に関して, 手術時間とそれに関連する因子 (年齢, 性別, 手術側, 合併症の有無, BMI, 出血量, 腫瘍径, 発生部位, 露出した顔面神経, 術者の経験) について多変量解析をおこなった. この結果, 年齢, 性別, 手術側, 合併症の有無, BMI, 露出した顔面神経については手術時間との関連は認めなかったものの, 出血量, 腫瘍径, 発生部位, 術者の経験については有意な相関を示した. また, 20-39例経験した術者の平均手術時間と40例以上経験した術者の平均手術時間は概ね同等であったことから手術時間が安定するまでには30-40例の経験が必要と思われた. この結果, 手術時間を短縮するためには経験の少ない術者は腫瘍径が小さく下極に存在する腫瘍から研鑽をはじめ経験が増すにつれて大きくて浅葉や深葉に存在する症例を経験していくことが望ましいと思われた. また, 手術時間が安定する30-40例までは熟練した指導医の補佐が必要な時期と考えた.