石光 俊彦, 本多 勇晴, 高橋 知里, 里中 弘志, 岩嶋 義雄, 藤乘 嗣泰
Dokkyo Journal of Medical Sciences 49(1) 9-15 2022年7月
高血圧治療ガイドラインでは,診察室血圧(OBP)は1-2分間隔で測定を繰り返し,安定した2回の測定値の平均で評価することとされているが,数多い高血圧患者の実地診療において測定を繰り返すことは難しく,1回の測定で評価される場合も多い.本研究では診察室血圧が高値を呈する高血圧患者において,深呼吸後に測定を繰り返すことによる血圧の変化を検討した.外来を受診した高血圧患者で,診察室の収縮期血圧(SBP)140mmHg以上を呈した160名を対象とした.1回目の測定の後,深呼吸を繰り返し1-2分後に2回目の測定を行い,血圧の変化に関係する因子を検討した.1回目のOBPは147/84mmHgであったが,2回目は136/82mmHgと平均11/2mmHg低下し,69%が非高血圧となった.SBPが10mmHg以上低下したR群(91名)と10mmHg未満のN群(69名)の比較では,R群の方が血清クレアチニン(sCr)が低く(1.03 vs 1.36mg/dL,p=0.018)血中ヘモグロビン(Hb)が高値(13.9 vs 13.1g/dL,p=0.012)で,SBPの低下とHbの間には負の相関が認められた(r=-0.157,p=0.046).SBPが140未満に低下した110例ではしなかった50例に比べ,家庭血圧で夜のSBPが低く,HbやeGFR(62.3 vs 52.1mL/分/1.73m2,p=0.021)が高値で,sCrやアルブミン尿(124 vs 425mg/gCr,p=0.025)が低値であった.外来加療中の高血圧患者で診察室血圧が高値である場合,特に腎機能低下や蛋白尿がなければ,多くは深呼吸を繰り返すことにより正常化するため,治療方針を決める際に考慮するべきであると思われる.(著者抄録)