中島 諒太, 川平 洋, 下村 義弘, 青木 圭, 郡司 久, 林 秀樹, 松原 久裕
千葉医学雑誌 93(4) 31,175-37,175 2017年8月
【目的】内視鏡外科手術は,体壁に留置したトロッカーによって鉗子操作を行うため,腹腔内で術野を確保するために上腕を空中で固定するなど,不自然な姿勢で手術操作を行うため,身体的負担を来たしやすい。そこで上腕保持状態の固定を目的とした外骨格型手術支援機器(Surgical Assist Suit:SAS)を開発し,外科医の手術操作にどのような影響を与えるか,検討した。【方法】2014年12月から2015年10月まで計6回,体重30kgの雄家畜ブタ計6頭を全身麻酔し模擬手術実験を行った。2名の腹腔鏡下胃切除術に精通した外科医が参加し,SASを装着,非装着で腹腔鏡下幽門側胃切除の大彎側リンパ節郭清を行った。検討項目は出血量,リンパ節郭清時間,手術助手における両側三角筋の表面筋電位である。術者AはSAS装着1回,非装着一回,計2回,術者BはSAS装着2回,非装着2回,計4回,全体として計6回の動物実験データを取得した。【結果】SAS非装着群とSAS装着群の2群比較において,模擬手術によるリンパ節郭清時間時間,出血に相違を認めず,両側三角筋%MVCに有意差を認めなかった。SAS装着群でSASを使用し上腕を固定した状態,SASを利用していない状態,SAS非装着群の三群比較において,%MVC,APDFに有意差を得られなかった。【考察】SASによる手術手技への悪影響も指摘できなかったが,SAS装着による表面筋電位有効性は証明されなかった。しかしながら人間工学的デザインと制御機構によっては,有効性が得られる可能性もあり,ウェアラブル機器としての開発を進めていく必要があると思われる。(著者抄録)